10)カルボナーラ


《あ 俺。今から行く。もしかしてハラ減ってるかも。んじゃ》

プツン・・・ツ〜・ツ〜・ツ〜・・・

わずか10秒足らずではあったが、一週間ぶりのヒデの声はBODYの気持ちを明るくした。

久々のオフだが外出する気も起きず、気だるい午後をただぼんやりと爪の手入れをして過ごしていたBODY。
あの日以来、あれだけ塞ぎこんでいたはずなのに、
今のヒデからの電話の声を聴いただけで、BODYの心は不思議な安堵感に包まれる。

耳に残ったヒデの声は、サイドボードの写真の当時そのままのような気がしたし、
もしここにやって来ても、当時となんら変わっていないような気さえしてくる。

合鍵を持っているくせに必ずチャイムを鳴らし外で待つヒデ。
しかしピンポ〜ンとは決して鳴らさないヒデ。
ピン・・・と押したまますこし間をあけ、そして、ゆっくり指をはなしてポ〜〜ンと鳴らす。
ドアのスコープからのぞくと、ふざけた顔で毎回違うポーズをとっているヒデ。
ドアを開けようとすると、満面のいつもの笑顔でドアのすきまから中をのぞき込むヒデ。
クツをばらばらに脱ぎ捨てたままドカドカ部屋に入ると、
いきなり靴下とGパンを脱いで、下はトランクスだけになってしまうヒデ。
当時は当たり前のように毎日繰り返されていた光景・・・
そしてヒデのあの笑顔、あの声、あのしぐさ、あの背中、あの匂い、そしてあの指・・・

しばらくすると、その光景がそのまま繰り返され、あのままのヒデがここにいる。
実際はそんなことはありえないのはわかっているが、なぜかそんな光景やヒデを想像して、
たとえ一瞬でも、とても暖かい幸福な気持ちになっているBODYだった。

「ん〜〜。じゃやっぱ、カルボナーラにしよっかな・・・」

久しぶりにヒデの為に料理を作る。そのことがBODYを嬉しくさせているのがわかる。
胸にブランドのロゴの入ったゆったりした白のメンズのTシャツに、
すらっとした脚にぴったりとフィットした膝上までの淡いグレーのスパッツ姿のBODYは、
髪をゴムでまとめ、水色のエプロンをかぶるとキッチンに立った。

パスタ用の深い鍋を火にかけ、冷蔵庫からソースの材料を取り出す。
ボールにパルメザンチーズをおろし、生クリーム、塩、ブラックペッパーを加えてまぜる。
熱したフライパンにオリーブオイルを入れ、切ったベーコンを表面がカリカリになるまで強火で炒め火を止めた頃、
そろそろ沸騰した鍋に塩と二人分のパスタをパラパラと放り込む。
アルデンテまで待つ間に、余熱の残るフライパンに先ほどのソースを流し、バターを加え混ぜあわせていく。
そして、ちょうどよく茹で上がったパスタをフライパンに移し、手早くソースと絡めた後、卵黄を落とし、
さらに手早く絡める。

「お いい匂いじゃんか・・・」

え? 背後で急にした声に驚いて振り向くBODY。

そこには、いつの間にかヒデが立っていた。





・ 次頁へ
・ 前頁へ
・ 表紙へ

・ TAKUプロフィール
・ 無理矢理なメニュー!
・ ケータイTOP