07)写真


40℃のシャワーが冷え切った身体に心地よい温度で、肩から手入れの行き届いたなめらかな背中、
形のよいヒップ、ひきしまった太ももへと、水をはじく張りのある白い肌を伝わって床に弾ける。
一日の疲れと、涙と、どす黒いコーヒーと床の汚れが、鳥肌と共に一気に洗い流されていく。

この鼻の奥にまとわりつくようなラベンダーの香りがあまり好きではないが、髪となじんだ時の手触りがとても気に入っているシャンプーを
いつもより少し多めに手にとり丁寧にマッサージすると、重かった頭がすっと軽くなっていくのがわかる。

なぜか同じラベンダーの香りのはずなのに不思議に鼻の奥にまとわりつく感じがしないリンスを洗い流すころには、
身体はほどよく温まり淡いピンク色に肌が火照っている。

BODYはシャワーから出ると、ゼブラ柄のぴったりとした、かなり浅いローライズのボクサーショーツに長い脚を通し、
ゆったりとしたTシャツをかぶり、リビングの毛足の長いカーペットにペタンと座った。

アナウンサーという職業柄か、普段は25歳という年齢よりもすこし落ち着いたムードをかもし出しているが、
素顔のBODYは年齢よりもだいぶん幼い印象だ。こうして床に座っていると少女にさえ見えてくる。

テーブルの上の携帯に目をやる。着信はない。
BODYはそのまましばらく携帯に目を止めていたが、思いたったように座った場所から前のめりにテーブルまで手を伸ばして携帯をつかんだ。
フリップを開けリダイヤルボタンを押す。
しばらく呼び出し音を聞いていたが、諦めてフリップを閉じ、ため息をもらす。

「・・・・・シカトか」

床に置きっぱなしのバッグを目でさがし、先ほどの携帯と同じように、その場から手と身体を伸ばしてバックを引き寄せ、
中からヒデが吸っているからという理由で吸っているマルボロを取り出し火をつける。

肺の奥深くまで洋モク特有のイガラっぽい煙を吸い込むとすこしクラクラする。
最近煙草の本数が増えたが、今日はほとんど吸っていない。
仕事もバタバタと忙しかったし、その後はもっと・・・

うっ・・・しまった!

いつの間にか俺はこのBODYの中に入っているかもしれない。
いや、もうかなりBODYの感覚と俺自身の感覚が混じり合ってしまっている。
今、煙草でクラクラした感覚は、完全にBODYの感覚だ。
何故、BODYが25歳だと知っているんだ俺は?いかん。
見て思ったことと、直接感じてしまったことの境目があやふやになってきている。

先ほどファミレスでBODYのあまりにも惨めな状況に出くわし、自分がいたたまれない気分になっているのは自覚していたが、
そういう気持ちが、知らず知らずのうちに感覚の遮断を甘くしてしまったに違いない。
いかんいかん。後で苦労するのは目に見えている。BODYへの干渉は禁物だ。俺はしがない行きずりの憑依霊なのだ。

「ヒデちゃん・・・」

え?
BODYがサイドボードの上に飾ってある写真を見てつぶやいた。
そこには、はしゃいで抱き合いながら笑ってこちらを向いている日焼けした二人が写っていた。




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