15)銀蝿


「しかも・・・一度だけじゃない・・・二度です」

「俺があんたの命を二度も助けたってのか?」

「はい・・・最初の時は、俺がまだ暴走族やってた頃です。たぶん15〜6だったと思います。
深夜、アンパンでラリって盗んだ単車でダチとニケツして信号無視して交差点に突っ込んだ時、
たまたま走ってた亜鬼場さんの車に、であいがしらにはねられたんです。」

「ん?・・・・・・おお! あん時の小僧か?」

「そうです・・・あの時、亜鬼場さんは、
切れて車から飛び出してきて・・・でも、吹っ飛ばされて動けないでいる俺とダチを見て、
すぐ車で近くの病院に運んでくれました」

「おお・・だってよぉ・・・あん時、お前ら単車ごと10mは吹っ飛んだぞ?
なにしろ俺、まさか単車が突っ込んで来るなんて思ってねえからさぁ。
お前らもだろうけど、俺ノンブレーキで交差点に入ったんだもんな」

「しかも、俺達をかばって、こいつら頼む!とだけ言って病院から立ち去った・・・
どう考えたって、10:0で悪いのはこっちだし、事件になったら俺達やばかったし。
しかも俺もダチもノーヘルだったんでかなりの怪我で、あのまま現場にほっとかれたらダメだったそうです。
あすこは深夜ほとんど他の車通らないし・・・」

「・・・そっかぁ・・・あん時の小僧の片方だったのかぁ・・・んで、も一回ってのは?」

「その後も数年間、俺、懲りずにそのダチとつるんで悪さばっかしてすさんだ毎日をおくってました。
最後にはシャブにまで手〜出して最悪なパターンだったんです」

「・・・・・」

「んで、そんなある日、家でテレビ見てたら亜鬼場さんが出てたんです。
亜鬼場さん以前『銀蝿』っていうロックバンドやってたですよね? 
たしか、その亜鬼場さんのいるバンドのボーカルの人がシャブで逮捕された時の記者会見だったと思います」

「・・・・・」

「そん時の亜鬼場さんのコメント聞いてたら、なんか不思議に自分自身が言われてるみたいな気になって・・・
上手く言えないんですけど何かが俺の心に響いたんです。何でだか自分でもよくわかんないんですけどね。
もちろん、その時は例の単車の事故で助けてくれたのも亜鬼場さんだなんてまだ知らなかったんですけど。
とにかく、その日以来、俺は何故か毎日亜鬼場さんのバンドの曲を聞くようになって、
だんだんそのメッセージっていうか、生き方ってのに感化されていったんです。
そしたら、いつの間にか、ちゃんと仕事もするようになったし、当然シャブもきっぱりやめてました。
なんか嘘みたいな話ですけど、でも、若い時って、いくらグレてても、
そゆのにまっすぐに感化されるじゃないですか。」

「・・・・・」

「あのままいったら、俺、どうなってたかわかんないくらいひんまがった生活してたんです。
せいぜいどっかの組織の鉄砲玉にされるか、下らん喧嘩騒ぎで刺されるか、シャブでくたばってたと思います。
実際、当時の仲間の何人かはそうなりました」

「そっかぁ・・・」

「そして、その後亜鬼場さんがなんかの雑誌のコラムで書いてた記事よんで・・・
例の単車の事故の時も相手が亜鬼場さんだったことを知ったんです」

「おおおお。そいえばだいぶ後に暴走族の話題としてそのエピソード、雑誌に書いたことあるな・・・」

「俺としては非常に驚きました・・・まさか、あの時の事故の相手と、しかも命の恩人と、
更生のきっかけになったバンドのメンバーが同一人物だったなんて・・・」

始終真剣な眼差しで、まっすぐ拓治郎を見つめながら語った梶原。
しかし、その後のまだ他に何か心にひっかかっている事がありそうな梶原の表情を読み取って、 拓治郎はなおも突っ込んだ。

「ふ〜ん・・・なんとなくは話わかったけどよお。でも、まともになったあんたが、
な〜んでよりによって明光の特殊部隊やってんだお? しかもあんた自主入園だろ?」




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