14)潜入


「自分は、明光の特殊工作員です」

「ん?なんじゃそれ?」

「外部の亜鬼場さんはもちろんご存知ないと思いますが、明光園には、有名な青竜、朱雀、白虎、玄武の4つの部隊以外に、
“トロイ”と呼ばれている黒澤直轄の秘密の特殊部隊があるんです。明光の中でもそれは機密事項で幹部クラスしか知りません。
偵察や工作、そして暗殺がトロイの主な任務です。もちろんトロイの特殊工作員はスキンヘッドにもしてないし、ヨ〜ランも着ません。
明光園の人間に見えては任務になりませんからね。みな特殊な訓練を受けているツワモノですが、
みてくれは、そこいらの普通のじじいとなんら見分けができないようにしています」

「おわ・・・なんかすげえ世界だなぁ・・・でも、じゃあんたラッキ〜だねえ。
明光なのにあの薄気味わるい学ランのタコ坊主にしないでいかったんだろ?
あはは。区別つかね〜もんな明光のヤツって。みんな同じ顔に見える。学ラン着たタコの軍団だもな」

「黒澤は、潰そうとする養老院が手強い場合。まずトロイの工作員をスパイとして潜り込ませます。
そして明光にとって危険と思われる人物を特定しそれを拉致監禁、そして場合によっては抹殺させるのです。
それが済んだところで初めて攻めて行くのが黒澤のやり方なんです。今までその手でことごとく勝利し、各不良養老院を手中におさめてきました。
だから自分は黒澤の命令で、次のターゲットであるこの長寿園に目立たないように先月から出入りしていました」

「ふ〜ん・・・黒澤ってヤツがここを狙ってるらしいって話は俺も耳にしたけどよぉ。
でも、腑に落ちないのは、今まで明光は、配下にしたら役に立つ強力な不良養老院ばっかと喧嘩してたじゃんか?
なんでわざわざ軟弱で有名な優良養老院のここに攻めてくる必要があんだ?」

「それは亜鬼場さん・・・あんたがここに入園したからですよ」

「げ・・・」

「黒澤は、あんたがここをまとめ上げる前に潰そうとあせってるんです。いずれここが、一番の強敵になると考えてるからだと思います。
つまりは・・・亜鬼場さん、黒澤はあんたを恐れてるんですよ。
実は、明光は山本さんのいる八景園への作戦も一度失敗しているんです。黒澤は山本さんと亜鬼場さんの関係も知っているので、
そのこともあるんだと思います」

(げ・・・ヤマケンの野郎、俺に余計な心配させねえように、自分とこの肝心な話はハショリやがったのか?あはは あいかわらずなやつだ・・・)

「ん〜・・・おいおいおい。ここをまとめるったって俺は今さらそんな気さらさらないぜ?ガキじゃあるまいしよぉ。
な〜んで65にもなって俺がお山の大将やんなきゃならんの?俺はのんきで平和な老後にあこがれてんだど?
かわいいおじいちゃんになって、おちゃめにボケるのが目下俺の最大の目標だお。あはは」

「黒澤は多少頭おかしくなってますが、先を読む目と危険に対する野生の勘は恐ろしいくらいです。
わずか数年で神奈川県だけでなく、関東一円の主だった不良養老院をほぼ制圧したのも、
黒澤のあの暴力性だけでなく、その勘と用心深さがモノをいったからだと思います。
俺もここに潜入してから一ヶ月間、ここの様子を色々調べさしてもらいました。
主だった在園生の潜在能力、そして、なにより亜鬼場さんを見てたら、黒澤の目がふしあなじゃないことが俺にも確信できました。
もし亜鬼場さんがここをまとめ、そして山本さんの八景園と組んだら、黒澤の全国制覇の野望は何歩も後退することになります」

「ふ〜ん・・・でもよ?なんであんた俺をとれなかったんだ?つか、なんであんとき迷いがあったんだ?」

「・・・・・・」

「見たトコあんたも特殊訓練されてんだろ?昼寝してる俺なんてソッコ〜で始末できたはずだど?」

拓治郎にそう言われて、一瞬目をふせた梶原。そして何かを打ち明けるような神妙な顔で再び口をひらく。

「亜鬼場さん・・・実は俺・・・・」

「ん?」

「実は俺・・・昔、あんたに命・・・助けてもらったんです」

「ほえ?」




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