13)覇者


「んだとお〜? か・梶原がしくじっただとぉぉぉ!」

バキっ!

「うぐっ!」

拓治郎襲撃の失敗を報告したスキンヘッドが、目の前の白のヨ〜ラン(白い長い学生服)を着た大男の、
そのグローブのような拳のやつあたりの裏拳で壁まで吹っ飛んだ。

しかし、そのスキンはすぐに立ち上がり、

「押忍!」

気合の入った声でそれだけ言うと、元の位置で直立不動の“気をつけ”の姿勢に戻った。
今の一撃で、唇を切り、壁に激突した刺青の入ったスキンヘッドの後頭部はもちろんタンコブ。
それでもしかし、“気をつけ”の姿勢で怒りに興奮した白ラン巨人の次の言葉を待つ。

「押忍!」

「ほ・ほいじゃなにか?あ・亜鬼場のクソガキゃまだ、ピンピンしてるちゅうことかぁ?」

「押忍!」

「ん・んで、ドジな梶原のボケは、今ぁ、ど・ど〜してんだぁ?」

「押忍!トミチョ〜の医務室で看病されてるもようです」

「なぁんだとぉ???しゅ・襲撃に失敗して、あ・あ・あ・あのボケまだのんきに生きとんのかぁ?」

「押忍!」

ドカっ!

「うっ!」

再び、直立不動のそのスキンヘッドのみぞおちめがけ、靴のサイズ33cmの蹴りが入った。
今度はその場になんとか踏ん張り、しかし、うずくまるスキン。

「・・・お・押忍!」

「どど・どいつもこいつも、マヌケがそろいおってぇぇぇぇ〜!」

バキっ!
ドカっ!
バシっ!

怒りにまかせて、その場に並ぶ他の数人のスキンヘッドにもやつあたりするその白ラン巨人。

「うっ!」
「あぐっ!」
「おえっ!」

「てっ・てぇめえら、む・む・む・無駄に雁首そろえやがって、そ・そ・それでも明光の幹部か?おぉぉ?」

「お・・押忍!申し訳ありません!」
「押忍!」
「押忍!」

ここは、逗子にある悪名高い私立明光園の一室。

今どき珍しい応援団のようなヨ〜ラン姿に刺青入りのスキンヘッドという不気味な連中を相手に、
やつあたりの嵐を吹き荒らしている、これも今どき珍しいこっちは白いヨ〜ランの大男は、
真っ赤に染めたモヒカン頭の身長193cmの特大じじい。
(モヒカンの部分をあわせれば、身長はゆうに210cmを越すであろう)

顔中にはいたるところに縫い目があり、しかも左目は、ハードコアにリベットがギラギラ打ち込んである黒革の眼帯。
凶暴な面構えと、白ランの上からでもわかるそのゴツゴツの巨体は、
まさに『北斗の拳』に出てくる悪党のような雰囲気だ。

そう、これが悪名高い私立明光園の支配者、黒澤大和である。

黒澤は若かりし時、新鋭のK-1のファイターとして“夜魔斗(やまと)”のリングネームで大活躍。華々しい脚光をあびていた。
しかし、ある年のK-1グランプリの決勝で、“ザ・ビースト”として恐れられていた当時無敵の怪物、
ボブ・カットと世界王座をかけて対戦し、無残にも左目を潰され敗退。
片目を失っても、格闘以外生きるすべのない黒澤は、その試合での敗北の後も、
落ちぶれながらも無理を承知で“ドサまわり”の片目のファイターとして現役を続けた。
長年“かませ犬”としてリングに上がり続け、最後はぼろぼろになって引退した。

現役時代のパンチの食いすぎから脳に障害が残りちょっとおかしい。
そもそも凶暴な性格だったが、今では興奮するとなお見境がなくなり手のつけられないことになってしまう。
日常でも若干言葉が回らなくなっていて、どもりが激しい。

2年前、黒澤が65歳になった時、その凶暴さゆえどこの養老院にも受け入れを拒否されたが、
なぜか私立の明光園だけが黒澤の入園申請をすんなり受け入れた。
明光園に入ると、独裁者のごとく恐怖で園を支配し、他の不良養老院までをも力で掌握し勢力を拡大、
このままで行くと神奈川県、いや、関東全域の不良養老院を手中におさめる程の勢いである。

明光園はいわば黒澤の軍隊だ。黒澤によって厳しい規律と統制がしかれ、
自身は特大の白のヨ〜ランに身を固め、他の不良生徒はみなスキンヘッド、そして黒のヨ〜ランを制服としている。
トップの黒沢の下には、明光四天王と呼ばれている4人の最高幹部が配置され、その4人が各部隊の指揮をとっている。
先ほどから、黒澤のやつあたりを受けているのは、その4人の最高幹部達だ。

4人の最高幹部のスキンヘッドにはおのおの異なった刺青が入っている。

“青竜隊”を指揮する幹部の頭には青い竜。
“朱雀隊”を指揮する幹部の頭には赤い鳳凰。
“白虎隊”を指揮する幹部には白い虎。
“玄武隊”を指揮する幹部は蛇が巻きつく黒い亀。

それぞれの絵柄は、東西南北や春夏秋冬を司る伝説の動物だ。
誰の趣味だかわからんが(もちろん黒澤に決まっている)、四匹揃うと非常に不気味だ。

その、不気味な連中に散々やつあたりをして暴れまくり、それでもまだ気がおさまらない黒澤は、
イライラしながらその130kgの巨体で部屋中を歩き回り、
部屋に置かれたイタリア製の高級な革張りのソファーに蹴りを入れ、
大理石のテーブルをひっくりかえし、デスクの上のモノを床に撒き散らす。

目の前の凶暴な片目の野獣に怯えながらも4匹の幹部達は、
みな、顔を腫らし血を流しながらも直立不動で黒澤の指示を待つ。

「お・おい渋川よおぉぉぉぉ」

「お・押忍!」

ひとしきり暴れて多少落ち着いたのか、黒澤がその残った片目でギロリと、
頭に白虎の刺青が入った幹部の一人を見据えて言った。

「お・お・お、おめぇ〜があ・あの、亜鬼場のガキと、つ・ついでに梶原のボケをまとめて、し・始末してこいやぁぁ」

「押忍!」

言われた虎は気合の入った声でそう言うなり、即座に部屋の外へ消えていった。




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